2006年、1本のレンズ洗浄液が世界中の店から消えた

2006年のはじめ、シンガポールと香港の眼科で見慣れない増加が起きました。健康な目ではめったに見られないフザリウム(Fusarium)というカビによる角膜炎が、コンタクトユーザーに次々と現れたのです。
アメリカでも症例が報告されると、CDCとFDAが調査を始めました。ありふれた見た目のケア用品の1本が、世界的な調査の中心に置かれることになりました。
症例に共通するものを探す
調査担当者は、どのレンズとどの液を使っていたか、レンズをつけたまま寝たか、レンズが水にさらされたか、ボトルをいつ開けたかを尋ねました。感染しなかった人と症例を比べると、くり返し出てくる答えが一つありました。ボシュロム(Bausch + Lomb)の「レニュー ウィズ モイスチャーロック(ReNu with MoistureLoc)」です。
2006年4月、同社はアメリカの工場で作られた製品の出荷を止め、5月には世界中の市場から製品を完全に撤退させました。FDAの記録には、すべてのサイズとロット番号が並び、流通した量はおよそ300万個とされています。
保存液の種類の違いは、コンタクトレンズの洗浄液は、なぜただの塩水ではないのかでまとめました。
工場でカビが入っただけの話ではなかった
「未開封の製品がカビに汚染されたまま工場を出た」というだけでは、すべてを説明できませんでした。調査した製品や工場の検査から、フザリウムが一貫して見つかったわけではなかったのです。
問題は、製品と実際の使われ方とのあいだの相互作用に近いように見えました。ボトルを開けてから何週間も使ううちに、口の部分が汚れたり、温度が上がったり、レンズケースに汚れがたまったりします。古い液に新しい液を継ぎ足す、レンズをこすらないといった習慣も、あわせて調べられました。
消毒の性能は、清潔な実験室の一場面でだけ働けばよいものではありません。洗面所の棚、湿ったレンズケース、開いたボトル、指がある暮らしの中で働かなければならないのです。
なぜこれほど大きな回収が必要だったのか
カビによる角膜炎はまれですが、治療が難しい病気です。ふつうの抗生物質はそのままでは効かず、診断が遅れると角膜に傷あとが残ったり、視力が落ちたりすることがあります。
いくつもの国で同じ製品を指す兆候が見えたとき、待つことの代償は大きくなります。回収は、すべてのボトルが汚染されているという宣言というより、不確かな状態が続くあいだ、さらされる機会を止めるための措置です。
この出来事は「こすらない」手入れについても疑問を残しました。現在CDCは、製品の指示どおりにレンズをやさしくこすってすすぎ、外すたびに新しい液で保管するよう勧めています。水道水はレンズ用の液の代わりにはなりません。
製品、レンズ、ケース、手、そして使ってきた期間が、一つの手入れのしくみをつくっています。新しい液を使って古い液と混ぜないこと、ボトルの口を手やケースに触れさせないこと、痛みや見え方の変化があればレンズを外して目を診てもらうこと。
世界中から回収された1本の小さなボトルは、コンタクトレンズの手入れがレンズだけの問題ではないことを示しました。
回収のお知らせの読み方
「回収」という言葉は、その会社の製品をすべて捨てる理由にはなりません。公式のお知らせで、正確な製品名、サイズ、ロット番号、製造工場、流通した地域を確認しましょう。同じように、名前が似ているからといって自分の製品は対象外だと思いこまないでください。
自分の製品が対象なら、その液に新しいレンズを入れ直さず、公式の返品や廃棄の案内に従いましょう。目に異常があるなら、製品を替えるだけで終わらせず、どの製品を使ったか、症状がいつ始まったかを医師に伝えてください。まれな感染症は、いくつもの病院や国の記録をつなぎ合わせて初めて見えてくるということも、この出来事の教訓です。
使用期限と開封後どのくらい使えるかについては、一度も開けていないコンタクトレンズにも、なぜ使用期限があるのかで取り上げました。
参考資料
- FDA回収記録、ReNu with MoistureLoc
- CDC、Fusarium Keratitis — Multiple States, 2006
- CDC、Cleaning, Disinfecting and Storing Contact Lenses
製品の現在の安全性については、規制当局とメーカーの最新のお知らせを確認してください。