乱視用レンズはなぜ目の上で回ってはいけないのか

ふつうの近視用レンズは、目の上で回っても問題ありません。
丸いレンズは一周回っても、度数はまったく変わりません。
乱視用レンズは違います。度数だけでなく、向きも合っていなければなりません。そのため、目の上で定位置に落ち着き、そこにとどまる必要があります。
乱視は、一方向にだけ度数が必要な目です
米国眼科学会は、乱視を角膜や水晶体の本来の曲がり方が完全ではない状態と説明しています。正常な目はバスケットボールのように均一に丸く、乱視の目はアメリカンフットボールのボールのように一方向に強く曲がっています。
すると光が一点に集まらず、方向によってピントが違ってきます。どの方向がよりぼやけるかで、矯正をどの方向に入れるかが決まります。
そのため処方箋には3つの数字があります。
- SPH:近視や遠視の度数
- CYL:乱視を矯正する度数の大きさ
- AXIS:その矯正を置くべき方向。0~180度で表します
メガネはフレームに固定されているので、AXISはあるべき位置にとどまります。コンタクトレンズは目の上に浮いていて、まばたきのたびに動きます。向きが必要な矯正を、動くものにのせなければならないのです。
処方箋の数字それぞれの読み方は、1枚の処方箋に隠れた6つの暗号で取り上げました。
少し回るだけで矯正の一部が失われます
レンズが回るとどうなるのでしょうか。
Contact Lens Spectrum の臨床記事はこう説明しています。トーリックレンズが軸から1度ずれるごとに、円柱度数の矯正のおよそ3~3.5パーセントが矯正されずに残ります。そのため10度回ると、乱視の矯正のおよそ30~35パーセントが失われます。
同じ記事は、円柱度数が低ければ10度前後のずれは許容できることもある一方で、度数が高いほど小さなずれでも感じやすいと付け加えています。
つまりトーリックレンズは、度数だけで判断できるものではありません。目の上で定位置にとどまることが、矯正の条件なのです。
レンズが回らないようにする3つの設計
メーカーは、レンズがまぶたとかみ合って定位置に落ち着くように形を工夫しています。臨床文献によく出てくるのは次の3つの方法です。
1. プリズムバラスト(prism ballast)
レンズの下の部分を厚くします。まばたきをすると、上まぶたが薄い上の部分の上を滑り、厚い下の部分を下へ押します。臨床の文章ではこれを「スイカの種の原理」にたとえます。スイカの種を指で押すとつるりと逃げるように、まぶたの圧力がレンズを同じ場所へ押しやるというわけです。
2. シンゾーン(double slab-off)
レンズの上と下を削って薄くし、まぶたのあいだの空間に位置する、厚い中央部分が働くようにします。
3. まぶた安定化(eyelid-stabilized)
レンズは左右対称で、厚みが少しずつ変わる4つの安定化ゾーンがあり、上下両方のまぶたと一緒に働きます。レンズの光学部にはプリズムがありません。目にのせたあと、すばやく位置を見つけるよう意図された設計だと説明されています。
3つとも、厚みの配分をまぶたの動きに合わせることが鍵です。どれかひとつの方法がだれにとってもよいという結論はありません。プリズムバラストとまぶた安定化デザインを比べた研究でも、回転と症状は両者で同程度だったと報告されています。
それでもレンズは回ることがあります
設計がよくなっても、回転が完全になくなるわけではありません。臨床文献は、トーリックレンズが回る主な原因として、レンズとまぶたの相互作用を挙げています。まぶたの開き方、まばたきのときのまぶたの動く方向、頭の傾き、乱視の方向などが関わります。
そのため専門家はレンズを目にのせて落ち着かせ、どちらに何度回ったかを見ます。レンズが左に回っていればその分を処方の軸に足し、右に回っていれば引きます。臨床ではこれを「LARS」(Left Add, Right Subtract:左は足し、右は引く)と呼びます。
箱に印刷されたAXISがメガネの処方箋のAXISと違っていても、まちがいではないことがあるのもそのためです。レンズが目の上で落ち着く角度を、すでに考慮した数字かもしれません。この違いがなぜ生まれるかは、同じ目なのに、メガネとコンタクトレンズの度数はなぜ違うのかでも取り上げました。
知っておきたいこと
- 同じ度数でも、ブランドを変えるとふるまいが変わることがあります。 安定化の設計は製品ごとに違うので、トーリックレンズを変えるときは専門家に相談するほうが安全です。数字が同じでも、レンズが同じ位置に落ち着くとは限りません。これはベースカーブと直径が同じなのに、なぜつけ心地が違うのかともつながっています。
- 姿勢によってレンズの位置が変わることがあります。 頭を傾けたり姿勢を変えたりしたときにかすむなら、その状況を覚えておいて検診で伝えましょう。
- レンズを正しい位置に回そうとして目をこすらないでください。 指でレンズを回そうとすると、目を傷つけるおそれがあります。
乱視用レンズは、度数と向きを一緒に選びます
乱視用のコンタクトレンズには、主にトーリックソフトレンズとRGP(ガス透過性ハードレンズ)の2種類があります。
しかし、こうしたレンズの性能は一つの度数の数字で決まるものではありません。レンズがまぶたとどうかみ合うか、目の上でどれだけ安定するかが一緒に働きます。だから乱視のある人は、処方箋を受け取ったら必ずCYLとAXISを確認してください。
乱視用レンズはトーリックレンズのコレクションで見られます。処方された度数に合わせて選び、わからないことがあれば専門家に聞いてください。
参考資料
- 米国眼科学会、What Is Astigmatism?
- Contact Lens Spectrum、Don't Forget to LARS
- Contact Lens Spectrum、Problem Solving Soft Toric Contact Lenses
- Contact Lens Spectrum、A Difference in Designs
この記事は一般的な情報です。乱視用レンズの種類と装用方法は目によって違うので、専門家の検査と処方に従ってください。